Q.昆虫採集をすると、昆虫が減ってしまうのではありませんか。
A.いいえ、採集で昆虫を減らすことは不可能です。
昆虫が地球上で最も繁栄する生物になれた理由は、小さな体と短い寿命です。つまり他の動物より少ないエネルギーと時間で大量に仲間を増やすこと。
たとえば、鳥や獣が一度子を生み育てるだけの餌と時間があれば、昆虫はその何億倍にも増えることができます。1匹の昆虫はちょっとしたことですぐに死んでしまいますが、死んでも死んでもその何倍も生まれてくる、というのが昆虫が繁栄するための戦略なのです。
ゴキブリ捕り器でゴキブリが全滅しないように、採集によって昆虫を減らすことは不可能で、これまで採集によって絶滅した昆虫もありません。
Q.しかし、少なくなった昆虫を捕ると、やっぱり減ってしまうのでは。
A.いいえ、これこそ私たちが強く主張したきた問題です。
さすがの昆虫も棲み家や餌がなくなれば生きていけません。今日のように環境破壊が進むと少なくなる昆虫もでてきます。しかし、そうした昆虫を守るために採集を禁止するというのは、お腹が痛いときに目薬をさすようなもの。
昆虫が減少した原因を明らかにして、適切な対処をしない限り、採集をしようがしまいが、その昆虫は減る一方です。もうそろそろ「心ないマニア」などという、的外れな仮想敵に責任を押しつけるのをやめ、その昆虫が減少した根本的な原因に正面から向かい合うべき段階です。
それには、昆虫採集を通して昆虫や自然の状況を正確にモニターできる昆虫愛好家の育成が重要です。腹痛を治すにはお腹のことをよく知らなければ何もできないのですから。
Q.昆虫を知るなら、捕らずに観察し、写真を撮って記録すれば十分でしょう。
A.いいえ、それだけでは全く不十分です。
まず大切なことは、生物を観察するには色々な方法があって、どれも同じぐらい重要だということです。本来なら鳥や獣であっても、何をどれぐらい食べ、どんな病気にかかり、体の仕組みはどうなっているかなどを知るためには、野外観察だけでなく、実際に捕獲して調べることも必要です。
しかし、数に限りがある鳥や獣を、誰もが勝手に捕獲する訳にはいきません。その点昆虫なら、ごく一部の種を除き、多くの人が自由の観察し、採集し、飼育できますから、より多様で、より詳しい観察が可能です。
実際、これまで明らかにされた昆虫の生態や分布のうち、アマチュアの手になるものは少なくありません。野外観察と写真だけなどと、昆虫の観察方法に制限を加えて、一体どんなメリットがあるというのでしょうか。
Q.研究に採集が必要なことは分かるが、個人の標本コレクションは感心しない。
A.個人のコレクションが社会的にも重要な資料であることは歴然とした事実です。
昆虫標本とは、たとえ子どもが作ったものであっても、個人がただ眺めるだけに集めたものであっても、科学的、文化的に価値の高い一級のの資料となり、実際にそれらを基にして様々な研究がなされています。
文書資料がそうであるように、世の中に優れた資料、つまり標本が多すぎて困るということはありません。同じ種であっても個体差があり、地域や季節ごとに比較したり、年ごとに比較する必要もあるので、どんどん新しいものが加えられていることが理想です。このように膨大な量が必要とされる標本を、人員も予算も限られた公共機関だけで収集し管理することは困難でしょう。やはり、趣味として細かい目配りの効くコレクターの存在は重要なのです。
しかし、昨今の標本に対する悪い先入観によって、こうした個人コレクションを受け継ぐ人材が不足し、古い貴重な標本が散逸してしまうという危機が迫っています。日本昆虫協会では、昆虫標本という文化遺産の消失を防ぐために、全国の個人コレクターの相互連絡や、自然史博物館の建設を各方面に訴えることも活動テーマとしています。
わが国のコレクションを充実させ、日本の昆虫を研究するのに、わざわざ外国のコレクションを見に行かなければならないような現状を、一日も早く打破したいものです。
Q.やはり趣味で殺生をするのは悪いことだと思うが。
A.人間が健康な肉体と精神を維持するために必要な殺生の範囲内と考えます。
昆虫愛好家は涼しい顔で昆虫を殺すように思われがちですが、公園の樹木に毛虫が付いたり、雑草が茂って羽虫が増えたりしたとき、役所に薬を散布して駆除するように求めるのは、虫も殺さぬ普通の人々です。
世の中には野菜中心の食事をするなど、できるだけ殺生をしないことで精神の安らぎを得る人もいます。反対に趣味の狩猟や釣りなどを生き甲斐にしている人もいます。また、何百種類という多様な魚介類が食卓にのぼるのは、それぞれの味の差異を楽しむためであって、決して栄養のためだけではありません。これも精神を豊かにするための殺生といえましょう。殺生と無関係に見えるスキーやゴルフ、オートキャンプなども、施設を作るときに大量の生物が犠牲になります。
しかし、それが人生の楽しみという人にとっては必要なこと。このように人々の価値観は多様で、殺生を禁じるにせよ、奨励するにせよ、単一の価値観が全員に押しつけられる社会より、色々な価値観の人が共存できる社会の方が健全です。
要はバランスの問題。日本昆虫協会では昆虫採集や標本蒐集に伴う殺生を、豊かな精神を育て自然に親しむ健全な趣味の範囲内に収まるものと考えます。
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