外国産生きたクワガタ・カブトの輸入新たに44種が許可される
松香 宏隆/永田 隆
昨年11月24日、植物防疫所[通称:植防(しょくぼう)]は新たに、生きたクワガタ・カブトの輸入を44種許可した。すでに許可されていたものを含めるとクワガタ34種・カブト14種の輸入が許可されたことになる。このことにより、今年の夏は形の変わったクワガタや巨大カブトの展覧会ブームがやってくるかもしれない。うまくすれば生きた世界最大のヘラクレスオオカブトに触ることも出来るかもしれないし、輸入量が充分なら家で飼うことすら可能となった。ま、そんな楽しみは今年の夏までとっておくとして、「何故今まで許されなかったものが輸入できるようになったのだろう?」という疑問を感じている人もいると思う。今はやりの規制緩和の一環か?
日本には諸外国と同様に様々な輸入規制があり、植物防疫法では生きた昆虫の輸入は、「指定した種以外の生きた昆虫すべて」を輸入禁止にしている。昆虫は動物だから動物防疫法ではないかと思う方もいるだろうが、この法律は日本で作る作物や森林などを守うえで、害をおよぼす菌や微生物などを持ち込ませない為にあり、それゆえ植物防疫法となっている。外国から持ってきた虫が、もしも害虫となったら、その害虫駆除の為に億単位の税金が必要となり、そういう害虫になる可能性が「あるかもしれない虫すべて」を入れないために法律で縛っている。
しかしながら近年は食糧や材木の多くを輸入に頼る時代になり、多くの生鮮食品や木材が輸入され、またグローバル化による人の交流の増加もあり、現行の植物防疫所の組織力でのチェック体制は極めて不如意が否めず、色々な虫が入り放題になり、現行の植物防疫法では実効自体が行き詰まっている。実効のない旧態の法律維持より本来の目的の実効が上がる法律に改善する必要があり、現行組織の範囲でも実効が上がる手法を考えないといけない時代になっているだろう。
それはともかくとして、今までも葉や生材などの有用作物を害さない昆虫は申請すれば許可が下りてきた。例えば多摩動物公園が申請したハナカマキリは肉食性なので1987年に許可されているし、同様に肉食性であるトンボやタガメなど、それなりの種類が今までに許可されてきた。ただし、法律の運用の仕方もあって許可制になっており申請されない種類はいつになっても許可されない。
今回許可されたクワガタやカブトは腐植土、枯れ木などを食うために許可されたものだろうし、その材も有用植物でなかったことが重要なポイントだったと思われる。細かい指摘をすればカブトムシといってもタイワンカブトは含まれていない。なぜなら、西表島にある日本古来からあると考えられている十数本のヤシや観光のために輸入したヤシの成木も食害するからである。もっとも、許可がなくても輸入されるヤシとともにすでに入っているが……。
今回大量の種類が許可されたという事実は誰かが申請し、植防が植物防疫法に照らし合わせて許可したことになる。この申請人はインターネット上のホームページで申請時の経過を公開している (http://www.kuwahouse.com/kaikin/kaikin.html)。 一部の博物館などでは、今まで面倒で複雑な手続きや保管施設の整備や数量の管理報告等々を踏んで輸入してきたが、これからは従来より、かなり単純な手続きで生きたままの指定虫を日本に持ち込めることになったわけだ。
●昆虫もブラックバス化が起こりえる状態となった 植物防疫所が開示したインタネットホームページの最後には以下の文言が掲示されている。「植物防疫法では、有用な植物を害する昆虫類等(検疫有害動物)の輸入を禁止していますが、検疫有害動物でなければ、輸入することが可能です。〜〜(中略)〜〜また、国内外には、外来動植物により在来種の生態系が乱されるという、植物防疫法とは異なる問題点の指摘もあります。外国産の生きた昆虫を野外に放さない等の配慮も必要でしょう。」
今回の植物防疫所の判断は法律上の解釈問題よりも愛好家のなかや、もしくは一般社会でどのにように受けとめられるかである。1000万円のクワガタ報道があったようにいきすぎた投機的クワガタブームのさなかでもあり、また、日本の自然とはどういうものであって欲しいという思想的発想が日本ではふらついているため恐い面をも浮き彫りにしている。
生きた外国産クワガタやカブトがかなり自由に入ってこれるとなると、結果的に他の動物のように野外に放す人達もでると予想される。熱帯系の種類は寒さや乾燥の厳しい冬をのりきれないだろうから問題にはならないと思えるが、北方系の種は日本に居つけるはずで、その場合は今までいた種と交わったり置き換わる可能性もある。そうなると日本古来の固有種がいなくなり外国種や雑種が棲息することもありえるのだ。
海外の虫が日本の虫を駆逐する世界、いわゆる昆虫のブラックバス化、あるいは、無差別放流に端を発する雑種イワナやアマメ/ヤマゴ(ヤマメとアマゴの雑種)化といえる。総じてブラックバス化と表現した。
元の場所にいない虫を放す放蝶や放虫は昆虫愛好家にとって結論がでていない問題である。絶対反対が昆虫愛好家の9割近く、少数が限定賛成。しかし全く自由にやってもいいという意見は昆虫愛好家にはなかったはずで、それを許せるのは昆虫の生き様にそれほど深い興味を持っていない人達だけといえる。放虫はこれまで主に日本のなかでの種類の移動だったが、今回、大幅に種類が増えたため、特にクワガタに関しては外国産昆虫のブラックバス化が起きえる土壌ができたことになる。
放っておけばなしくずし的に放虫が進行していくことにもなり、早急に一般の人達にも受け入れやすいルールを作って、昆虫からみた日本の自然を今後どのようにしたいかを検討すべきだと思う。今まで、結論がでなかった一つには絶対反対が強すぎた面もあり、共に相いれることなく現実にはあちこちで放虫がどんどん進行している。オールオアナッシングではなく、我々昆虫愛好家の知恵を結集して各種毎の放虫に於ける現実的な影響等を明確にしつつ、さらに放虫や増虫したい人の気持ちも汲んだ一定のルールを示し、そのルールを普及させて、むやみに放虫を出来なくする雰囲気をつくるべきなのではないだろうか。
少なくとも昆虫のブラックバス化は避けたい。とりあえず考えられる基本理念は「日本の昆虫を外国産種にとってかわらせない/外国産種との遺伝子混合をさせないこと」ではないだろうか。学問的あるいは潜在社会的に昆虫界のリーダーシップをとっている日本昆虫学会や日本鱗翅学会には緊急に相談してもらいたいことでもある。もちろん、昆虫愛好家と社会をつなげる役割である当協会でも、何らかの指針を示せればと願っている。会員の皆さんからも有効的な意見をお聞かせ願えればと思う。
●生きたカブト・クワガタが輸入許可されている種 カブトムシ カブトムシAllomyrina=Trypoxylus
dichotoma サビイロカブトムシ(サビカブトムシ)Allomyrina pfeifferi アトラスオオカブトムシChalcosoma
atlas コーカサスオオカブトムシChalcosoma caucasus モーレンカンプオオカブトムシChalcosoma
moellenkampi ヘラクレスオオカブトムシDynastes hercules ネプチューンオオカブトムシDynastes
neptunus パンカブトムシEnema pan ゴホンツノカブトムシEupatorus
gracilicornis ノコギリタテヅノカブトムシGolofa porteri アクタエオンゾウカブトムシMegasoma
actaeon マルスゾウカブトムシMegasoma mars ゾウカブトムシMegasoma
elephas メンガタカブトムシTrichogomphus martabani
クワガタムシ オウゴンオニクワガタAllotopus
rosenbergi モーレンカンプオウゴンオニクワガタAllotopus
moellenkampi メタリフェルホソキバクワガタ(メタリフェルホソアカクワガタ)Cyclommatus
metallifer アルキデスヒラタクワガタDorcus alcides アンタエウスオオクワガタDorcus
antaeus ダイオウヒラタクワガタDorcus bucephalus オオクワガタDorcus
curvidens =(パリーオオクワガタ)parryi =(クルビデンスオオクワガタ)hopei =(インドオオクワガタ・タイワンオオクワガタ)grandis ミヤマヒラタクワガタDorcus
kyanrauensis ヒメオオクワガタDorcus montivagus コクワガタDorcus
rectus ライヒヒラタクワガタDorcus reichei アカアシクワガタDorcus
rubrofemoratus シェンクリンオオクワガタDorcus schenklingi オオヒラタクワガタ(ヒラタクワガタ)Dorcus
titanus ティティウスヒラタクワガタDorcus tityus パリーフタマタクワガタHexarthrius
parryi =(セアカフタマタクワガタ)deyrollei カニガタフタマタクワガタ(ブケットフタマタクワガタ)Hexarthrius
buqueti オオフタマタクワガタ(マンディブラリスフタマタクワガタ)Hexarthrius
mandibularis カンターミヤマクワガタLucanus cantori ヨーロッパミヤマクワガタLucanus
cervus ミヤマクワガタLucanus maculifemoratus マキシムマルバネクワガタNeolucanus
maximus アルケスツヤクワガタOdontolabis alces インターメディアオニツヤクワガタOdontolabis dalmanni
celebensis =(セレベンシオニツヤクワガタ)celebensis =(ダールマンツヤクワガタ)dalmanni =dalmanni
intermedia フェモラリスオニツヤクワガタ(フェモラリアツヤクワガタ・フェモラリスツヤクワガタ)Odontolabis
femoralis ステベンシオニツヤクワガタ(スチーブンスツヤクワガタ)Odontolabis
stevensi ニジイロクワガタPhalacrognathus muelleri オニクワガタPrismognathus
angularis キンオニクワガタPrismognathus dauricus コンフキウスノコギリクワガタProsopocoilus
confucius キバナガノコギリクワガタ(オオキバナガクワガタ・ギラファノコギリクワガタ)Prosopocoilus
giraffa ノコギリクワガタProsopocoilus inclinatus ジャワアカクワガタProsopocoilus
javanus =(フタテンクワガタ・アスタコイデスノコギリクワガタ)astacoides ルマウィギィノコギリクワガタ(ルマウィノコギリクワガタ)Prosopocoilus
lumawigi
植物防疫所が開示したインタネットホームページには以下の文言が掲示されている。
「お願い:種名(学名)を記載した輸出国公的機関発行の証明書を取得してください。輸入の際、植物防疫所(検査カウンター等)に「昆虫類等輸入検査申請書」と一緒に提出してください。植物防疫所(検査カウンター等)で、当該カブトムシ・クワガタムシの確認を行います。 なお、輸出国公的機関発行の証明書がないと、輸入可能な種類として申請があっても、植物防疫官による確認検査の結果、当該種であることの確認ができないことがあるので、その場合には輸入ができません。特に、証明書がない場合には卵、幼虫、蛹や雌成虫の輸入はできませんので、証明書を必ず取得して下さい。」
この文言には、不明確な内容があり、読み取り方によっては相反する解釈が起きるおそれがあります。申請される方々は事前に植物防疫所に確認された方が良いかと思います。そして植物防疫所にも現在のホームページの表現の改善をお願いしたいと思います。
「誤解例」:植物防疫所のホームページに掲載されている♂虫は現地の種証明書が無くても、検疫カウンターにて検査官が種の確認が出来れば輸入が出来る。と読み取れるので、個人が採集に言って偶然採取できた♂虫を突然に持ち込む可能性があり、トラブルになる可能性が危惧されます。この誤解例が誤解で無いのなら、その様にストレートに判りやすく掲示していただきたい。
「不明例」:証明書の発行は輸出「国」公的機関となっており「国」に限定しています。ですから、紛争国や日本国が国連にて認めていない固有地域の扱いが不明確となっています。特に「中華民国:台湾」の扱いは不明確です。その他の紛争地域の扱いも不明ですし、全世界の国によっては「虫種認定の出来る公的機関」等と言う組織が無い国の扱いも不明確(未記載)です。
(2000年2月ニュースレター42号)
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